時の終わり−避けられない約束



 私をドン ファンに引き合わせた男ビルはその後、会いにくるよう誘ってきた。彼はドン ファンの 見た とおり、やがて死ぬ。私は何度か会いに行こうとしたが、怠惰のためか他の理由のためにか、行くことはなかった。ビルの死を聞いた私はひどく悲しんだ。

 「わしはおまえの友達を死が押し広げているのを 見た
  だれでもエネルギーの深い割れ目を持っている。へその下の裂け目だ。
  それは呪術師が隙間 gap と呼ぶものだ。人が最高の状態のときには in his prime
  閉じている。」(P.96)

 ビルの裂け目はあまりに広く開いているのでドン ファンは自分の命もまた終わりに来ていると思ったが、そうではなく彼の系統 lineage が終わりに来たことがわかった。私はビルの死を知っていながら見過ごしたのだ、と言われた。そして十分に油断なくしている alert ことを怠ったとも言われた。私は反論したが、ドン ファンは油断なくしているとはどういうことかを説明した。

 「油断がない alert とは用心深い watchful とは違う。呪術師にとって、
  それは瞬間が影響しあうこととは無関係な日常の生活のしくみ fabric に
  気づいている、ということだ。
  わしに会いにくる前、おまえ達は旅に出たろ。その旅ではっきりした
  細かいことだけをおまえは知ったが、どんなふうに死が彼を
  飲み込んでいたかに気づかなかった。しかし実はおまえの中の何かが
  それを知っていたんだよ。」(P.98)

 ドン ファンによればビルの旅は死に行く者の旅として彼の物語を終わらせるものだった。ビルは最後の旅であることを知りつつ、彼を助けてくれた人たちみなに感謝していた。その旅は彼の目だけのための旅だった。彼の目が飲み込むことができるもの以外の、表面的なことはすべて捨て去った旅だった。

 しかし私がビルの死に感じた困惑はそのような話でどうにかなるものではなかった。ドン ファンは首を振った。そのようなインスタントな解消、癒し、結果を求めることはできない、と。

 「呪術師たちは別なやり方でものごとに向かう。使える時間などないのだから
  目の前にあらわれるものに完全に没頭する。おまえの混乱は節度 sobriety の
  なさからくるものだ。自分の友達に適切に感謝する節度がない。わしらみんな
  そうだがな。感じたことを決して表現しないし、しようと思ったときには遅い。
  時間を使い果たしたんだ。彼ばかりじゃない、おまえもそうだ。アリゾナで
  心から彼の感謝すべきだった。おまえを連れてくる困難を引き受けたし、
  わかるかどうかしらんが、実際彼はバス停で最良の一発を撃った。
  ところが感謝しなければならないときに、おまえは怒った。彼を裁いていたんだ。
  いやな奴だとかなんだとか。
  さておまえのしっぽに幽霊がしがみついている。彼に負っているものは
  決して返すことはできない。」(P.99)

 しかもドン ファンはビルが死につつありながら私の行動を知りたがっていたことを次のように表現した。「たぶん彼にとって、おまえにとっても知られていないだろうが、おまえは彼の最後の思考 thought だったんだ。」

 そう言われて私は倒れ込んでしまった。あたりは夕暮れ、落ちる太陽がその驚異的な金色の光を裸の山々に反射している。空には雲ひとつない。ソノラの砂漠はあまりに静かでその背後に世界が隠れているようだった。まるでその静けさが刃物のように私を骨の髄まで突き通した。ロサンジェルスに帰りたくなった私にドン ファンはこう言った。

 「おまえは 無限 を味わっている。おまえの靴の
  中にいたからわかるよ。走り出して何か人間的で暖かい、矛盾に充ちて
  馬鹿げたものの中に飛び込みたいんだろう。友達の死を忘れたいだろうが、
  無限 はそうさせてはくれない。それは
  情け容赦のない魔の手におまえをしっかり捕まえる。」(P.100)

 一体どうしたらいいのか、私は訊ねた。

 「唯一できることは友達の記憶を新鮮にしておくことさ。残りの生涯を、
  いや多分それ以上、生き生きしたものにしておくことだ。
  呪術師たちはこうやって声にすることのない感謝を表す。馬鹿げたこと
  だと思うかも知れないが、呪術師ができる最良のことだ。」

 しかし悲しみの感情はカルロスが離れず、そうした思考はすぐに飛んでいってしまう。そのようなことは不可能なことだと。

 だがここでドン ファンは悲しみとは何か、それを語り出す。

 「呪術師にとって悲しみは個人的なことじゃない。それはまったく悲しみ
  ではない。エネルギーの波だ。宇宙の深みからやってくる。
  そして彼らがラジオのように電波をつかまえる受信機であるとき、
  その波が彼らを打つのさ。昔の呪術師たちはな、わしらに呪術の
  公式全部を与えてくれるんだが、その彼らは宇宙には悲しみがあると
  信じていた。力として、状況として、光のように、意図のように、
  そしてこの永遠の力はとくに呪術師に働きかける。
  彼らには防御する楯がもうないんだから。
  友達や勉強の後ろに隠れることはできない。
  彼らは愛とか、憎しみとか、幸福とか、みじめさとかの後ろに
  隠れるわけにはいかないんだ。何も隠れるものがないんだ。
  呪術師の条件は悲しみが彼らにとっての抽象だ、ということだ。
  何かをやたら欲しがったり、なくしたり、自尊心からやって来るんじゃない。
  それは からじゃなくて、無限 からやってくる。
  おまえの友達に対して感謝しなかったことへ悲しみを持つことは
  そういう方向に傾いている、と言える。」(P.101)

 ドン ファンの師のフリアンは、途方もない俳優だった。ドン ファンはこの師の話をやさしく言い換えている。

 それは深い憂鬱に陥ったある男の話だった。あらゆる医者に行ったが、誰も治すことができなかった。そこで魂のヒーラー(癒す者)を訊ねた。ヒーラーは愛とともに治る、そう言った。だが男は自分は誰からも愛されているのでその点は問題ではないと答える。ヒーラーは旅行して別の世界を見てみろと言う。だが男は世界中旅したと言う。ヒーラーは絵とか車とか趣味に生きてみろという。だが男はそのようなものは全部試したが安心を得ることができないという。ヒーラーは救い難い嘘つきかも知れないと考える。しかし最後の洞察を持つ。

 「ああ、わかった。貴方のために完全な解決法を思いつきましたよ。
  現代最高の喜劇役者の演技をご覧になってはいかがですか。
  あなたを喜ばせ、憂鬱の種を全部忘れさせてくれるでしょう。
  貴方はグレート・ガーリックの演技をご覧になるべきだ。」
 「ドクター。もしそれはあなたのお勧めなら私はもうダメだ。
  もう治ることはない。私はグレート・ガーリックです。」(P.102)

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