| 大気の中の震え−無限の意図 |
ドン ファンはジョルジュ カンポとルーカス コロナドの話を聞きたがった。彼は出来る限り詳細な話を望んでいた。 ドン ファンの神秘を解き明かせると言われた人たちの名前と住所はアリゾナのユマで手に入れていた。彼らはソノラ州のゲマスとオブレゴン市の間にあるヴィカムなら、私に適切な道を案内してくれる人がいるだろうと遠回しに言った。だがヴィカムで政府銀行の調査官と会っても駄目だった。私はゲマスに戻り、ホテルに泊まり、オーナーのレイズ氏と知り合いになった。 ある日の午後、レイズはジョルジュ カンポを私に紹介した。純血のヤキインディアンの事業家だというふれこみだった。がバーとか大通りの人混みで人々に救いの手を見つけるためにアイデアを売っているようなよろず相談屋だった。私がドン ファンを探していると言うと、彼は金になると踏んだのだろう、ドン ファンの親友だとか言いながらしつこくつきまとってきた。 しかし彼が連れていってくれたのはポタムの町のルーカス コロナドという男の家だった。トランス状態、ヤキの受難祭用のすばらしい仮面で知られているという男である。50ドル程度ではそのぐらいのマイナーなシャーマンのところぐらいにしかいけず、ドン ファンに到達するためには2000ドルはかかる、というのだった。私はやけっぱちで仮契約した。 ルーカス コロナドは山羊の革を敷いて裸足で木のかたまりを押さえつけながら作業していた。木片を支え、それを回す足のコントロールは見事だった。その男はとても痩せていた。薄くて垂れたひげを伸ばし、それが角張った顔に険悪な傾きを与えていた。カンポは私を芸術について聞きたい者だと紹介した。しかしちょうどその頃は祭りが近いということもあって、詳しい話をしたければまた今度とルーカス コロナドは言った。 立ち去り際、私はルーカス コロナドの手と足を使った途方もない技術に賛嘆の気持ちを表現した。彼は驚いて目を開き、私のコメントに傷ついてしまった。彼のことを知らないのに探し出したり、彫刻を止めておく万力を買う余裕がないのを笑ったりすると思われてしまったのだ。ジョルジュ カンポの忠告に従って、彼の仮面を皮のジャケットと交換に買った。 帰り道、点検の必要があるとカンポは言って、ルーカスにもらった一番すばらしい仮面をただで巻き上げてしまった。私は町で彼と別れ、ロサンジェルスへ向かった。彼は次回現金で2000ドルを持ってくるつもりだと私が口に出したとき初めて満足したようだった。 5ヶ月後、私はジョルジュ カンポに会いにゲマスへ戻った。が運良くジョルジュ カンポは消えていた。わたしはルーカス コロナドに一人で会いに行くことにした。私がジョルジュ カンポを連れてないのでルーカスは親切であった。彼はカンポを裏切り者と呼び、仲間のヤキを搾取することで楽しんでいると不満をもらした。 私はルーカス コロナドにドン ファンのことを聞いてみたが、知らないようだった。しかしルーカス コロナドによれば、その男は年取っているのだから、別の名前を持っているのかも知れない、たぶん彼は仕事上の名前を私に教えたのであって、それは本名ではないのではないかということだった。そしてイグナシオ フローレスの父親なら知っていると言った。 「その人ですよ!」私は理由もわからず叫んでしまった。ルーカス コロナドはイグナシオが実際にどこに住んでいるのかは知らなかった。しかし彼は親切にも近くのヤキの町まで案内し、私のためにその男を見つけてくれた。イグナシオは60代半ばのでっぷりした大きな男だった。ルーカスは私を彼に紹介し、ノガレスで会った彼の父親をアリゾナからはるばる訪ねて来たのだと言った。「あなたは探している人を見つけたと思う。一人で行くべきだと感じる。」そうルーカスは言った。 ドン ファンの言うには、ジョルジュ カンポが私にとっては一番意義深い人物だったということだ。それというのは私の生活はカンポと同じようなイカサマ師だからだ。「奴は安っぽいイカサマ師だ。おまえはもう少し洗練されてるだけだ。これが物語 recounting の力だ。なぜ呪術師がそれを使うかの理由だ。自分の中にあるとは決して思えないような何かとおまえを接触させるのさ。」 すぐにその場を立ち去りたかった。ドン ファンは私がどう感じているのか的確に知っていた。 「おまえを怒らせるような表面的な声に従うことはない。」と彼は命令するように言った。「今からはおまえを導く深い声に耳を傾けるんだ。その声は笑っている。それを聞くんだよ。それと一緒になって笑うんだ。笑え!」 「ジョルジュ カンポの話を自分で語るんだ、繰り返し、繰り返し。」ドン ファンは言った。「その中に終わりのない富を見つけることができるぞ。どんなこまごましたところも地図の部分だ。それが無限の性質だ。一度わしらがあるところ threshold を超えてしまえば、目の前に青写真を置いて見るということが無限の性質なんだ。」 ドン ファンによればまたルーカス コロナドはカンポに劣らず意義深い人物だったということである。私は彼と同じく彫刻家志望だった。そして自分の芸術に対するスポンサーを探していた。ジョルジュ カンポとルーカス コロナドは一本の線の両端のように、一方では容赦がなく恥知らずで自分のことしか気にしない粗野でどん欲な人間であり、もう一方では感じやすく、苦しみに耐える芸術家で、弱く傷つきやすい。それが私の生活の地図だった。 「おまえはわしを探していた。そして見つけた。だからその敷居を超える。無限の意図はおまえのような人間を探すようにわしに語っていた。おまえを見つけた。わし自身も敷居を超えるわけだ。」 ドン ファンにとってひとつの時代の終わりを指していること、それは、そこに立っているものはそのままでいることができない、ということだった。ルーカス コロナドは末期的病気だった。ドン ファンは息子のイグナシオを通してそれをルーカスに伝えておいた。しかし彼は聞こうとしなかった。再び今度は私がドン ファンのメッセージを持っていったとき、ルーカス コロナドは保証もない誰かのこだわりにはうんざりしたというような、もし私がヤキだったら深く傷つくような表情をした。 ルーカスは政府の銀行から金を借り、作物を育てるつもりでいる。そして自分を治せるものを買うぐらいの金だったら稼ぐと言った。彼にとってそれはラジオの広告でやっていたヴァイタミノールという栄養剤だった。私はヴァイタミノールを買うお金をあげようと言ってしまった。その冷たい視線でいかに私が彼を傷つけたかがわかった。私の愚かさは取り消しのきかないものだった。 私はドン ファンの家に戻った。自分の熱心さが自分を裏切っていた。「そういうことでくよくよするエネルギーを使うな。」ドン ファンは冷ややかに言った。「ルーカス コロナドは悪循環にはまりこんだ。しかしそれはおまえも同じだ。みんなそうだ。奴にとってはヴァイタミノールだ、すべてを治すと信じている。自分の問題をすべて片づけるとな。今のところ奴はそれを手に入れることができない。だがそれでもいつか手に入れられると希望を持ってるんだ。 ドン ファンは突き刺すような目で私を見た。「話したことだが、ルーカス コロナドの行為はおまえの人生の地図だ。」と彼は言った。「わしを信じろ。ルーカス コロナドはおまえにヴァイタミノールを示した。しかもそれを力強く、痛々しくしたので、おまえを傷つけ、泣きたい気分にさせた。」 ドン ファンはそこで話すのを止めた。それは長くて印象的な沈黙だった。そして言った。「おまえはわからないなどと言わないでくれよ。わしの言うことが。どういうやり方にせよ、わしらみんなヴァイタミノールの自家用版を持っているんだよ。」 |