カスタネダ 第12巻 無限の能動面

シンタックスを越えて

非有機的意識


 弟子としての交わりの中で、ドン ファンはその生活環境の複雑さを私に明かしたことがある。私にしてみれば悲しいというか、失望したことに、彼がメキシコのソノラ州の掘っ立て小屋に住んでいたのはただ私の意識状態をその小屋が描いていたからだというのだ。私のことを貧相だと彼が実際に言っているとはまったく信じなかったが、他に住む場所を持っているというのも信じなかった。
 しかしどちらも正しいということがわかった。私の意識状態はとても貧弱であり、また彼は別に住むところを持っていた。そこは私が彼を見つけたところとは比べようもないくらい快適なところだった。それに彼は思っていたような孤独な呪術師でもなく、10人の女、5人の男による 戦士−旅する者 の一団をまとめるリーダーであった。中央メキシコに彼とその仲間の呪術師たちが住んでいたのだが、そこに連れていかれたときにはまったく驚いてしまった。
 「ソノラに住んでいたのはただぼくのためだったのかい、ドン ファン?」そうたずねたが、罪の意識と悔恨、そして無価値である感覚にともなわれた責任には耐えられそうになかった。
 「そうだな、実際にはそこに住んでいたってわけでもないんだ」彼は笑いながら言った。「わしがそこでおまえに会っただけだ。」
 「でもでもね。ぼくが会いに来るなんてわかるはずないよ。ドン ファンに知らせる方法なんてなかったんだから。」
 「だからな。ちゃんと思い出してみろ。わしを見つけられなかったことが何度もあったろう。辛抱強く、何日もわしのことを待たなくてはならなかった。」
 「ここからゲマスへ飛行機で行ったのかい、ドン ファン。」わたしはじれて尋ねてみた。一番近道は飛行機でいくことだと思った。
 「いや飛行機でゲマスに行ったわけではない。」大笑いして彼は言った。「おまえが待っている小屋に直接飛んでいったのさ。」
 何か目的があって、わたしの直線的な心が理解できず受け入れず、際限なく混乱させるようなことを言っているということはわかっていた。当時のわたしは、ドン ファンが言っていることが果たして本当なのかどうかをいつも自問していた、そういう意識のレベルにいたのだ。
 もうそれ以上質問する気になれなかった。私たちの思考と行動に関する二つの道筋を架橋するよう試みて、わたしはあてもなくさまよっていた。
 新しい環境ではドン ファンは知のもっと複雑な面に私を導くことを丹念に始めた。これが私の全注意力を要求し、たんなる宙づりの判断ではもう間に合わなかった。彼の知の深みに一挙に落ち込む時だった。私は客観的であることを止めねばならなかった。と同時に主観的であることからも離れなくてはならなかった。
 ある日、家の裏手にある竹の棒を掃除するのを手伝った。竹のとげがとても鋭く伝染病になるといけないから作業用の手袋をするように彼は言った。それからナイフでどうやって竹をきれいにするのか指図した。わたしはその作業に没頭していた。ドン ファンが話し始めたので、注意を払うためにやめねばならなかった。もう長く仕事をしたので家に入ろうと彼は言った。
 彼は広くてほとんど何もない居間の座り心地のいい椅子にわたしを座らせた。それから皿にナッツと乾燥したアプリコット、切ったチーズを並べてくれた。竹の掃除を終わらせたいとわたしは思ったので文句を言った。食べたくなかった。しかし彼はわたしの言うことにはかまわなかった。ゆっくり注意深く食べるようにと勧めた。これから言うことに対して油断なく注意深くするためにはちゃんと食事をとることが必要だというのだ。
 「すでにおまえが知っていることだが、この宇宙には絶え間のない力がある。」と話し始めた。「それは古代メキシコの呪術師が 意識の暗い海 と呼んだものだ。彼らの知覚する力が最大限になったとき、ズボンの中が震えるようなものを 見た のさ。もっとも何も他に着ているものがなかったらのことだが。その 意識の暗い海 は、ただ生き物 organisms の意識の元になっているってわけじゃない responsible for。器官 organism のない実体の意識の元でもあるわけだ。」
 「それって何だい、ドン ファン。意識をもっているけど器官のない存在って?」私はびっくりしてたずねた。そんな話は前に聞いたことがなかったからだ。
 「古代のシャーマンたちはこの宇宙全体が二つの力 force でできていることを発見したんだ。それは互いに対立してはいるが補い合っているものだ。わしらの世界が双子の世界だということは避けられない。その対立して補い合っているもう一方の世界には意識を持ってはいるが有機体ではないものが住んでいる。そのために、古代の呪術師たちは彼らを 非有機的存在 と呼んだのさ。」
 「その世界はどこにあるの、ドン ファン?」私は無意識に乾燥したアンズをむしゃむしゃ食べながらたずねた。
 「ここだよ。おまえやわしが座っているところだ。」私のせっついたところを笑いながら、彼はそっけなく答えた。「それはわしらの双子の世界だと言った。つまりわしらに親密な関係を持っている。古代メキシコの呪術師たちは空間とか時間とかおまえのように考えはしなかったんだ、連中はもっぱら意識という面から考えた。二つのタイプの意識が互いを侵害せずに共存している、どっちのタイプも全体的に違っているからだ。古代のシャーマンたちは時間や空間には関知せずにこの共存の問題に直面した。 有機的存在 の意識の度合い、 非有機的存在 の意識の度合いはあまりに違っていて、それらは最小限の干渉で共存できている、と彼らは考えたんだ。」
 「ぼくらはその 非有機的存在 ってのを知覚できるのかい、ドン ファン?」わたしはたずねた。
 「もちろんできる。」彼は答えた。「呪術師はそれを意志してやる。普通の人間もそれをするが、していることに気づかない。というのも双子世界があることに気づいていないからな。彼らが双子世界のことを考えるときには心はマスターベイションにふけるが、そういう空想が意識できない知識から来ていると思うことはしないだろう。わしらみんなその知識を持っとる。孤独じゃないんだ。」
 私はドン ファンの言葉に釘づけになった。突然、猛烈に空腹感に襲われた。胃の中が空っぽだった。彼の言葉をできるだけ注意して聞くこと、そして食べること、できることはそれだけだった。
 「時間や空間ということから物事に向かう難しさってのはだな、もし何かが時間や空間に着地した land ときだけおまえは気がつくってことだよ。それはかなり限られている。呪術師はそうではなくて、もし他の何かが着地したときにはそれに気づくだけの広大な領域を持っている。宇宙全体からやってくるたくさんのものが、意識は持っているが有機体ではないものが、わしらの世界の意識の範囲に着地するか、それとも双子の世界の意識の範囲に着地するかだ。でこの場合普通の人間の意識はそれに気づかない。わしらの意識の範囲に降り立ったり、双子の世界の意識の範囲に降り立つ実体は、わしらの世界やその双子の世界の外側にある別の世界に属している。宇宙全体は意識の世界、 有機的 非有機的 志気の世界であふれんばかりにぎっしり詰まっている。」
 ドン ファンは話を続け、私たちの双子の世界の外の別の世界から 非有機的意識 が彼らの意識の領域に降り立つことを呪術師たちは知っていると言った。また彼によれば、この地球の人間がそうするように、彼らシャーマンたちは意識を持ったエネルギーのタイプを際限もなく分類したということである。彼らはそれらのエネルギーを 非有機的存在 という一般的名称で知っていたのである。
 「そういう 非有機的存在 はぼくらが持っているような命を持っているのかな?」私はたずねた。
 「もし命というのが意識しているということなら、彼らには命がある。」そう彼は言った。「正確に言うとだな、もし命が力強さとか、鋭さとか、その意識の持続で測られるならば、そいつらはわしやおまえよりもっと生き生きしているとまじめに言うことができるぞ。」
 「その 非有機的存在 ってのは死ぬことがあるのかい、ドン ファン?」と私はたずねた。
 ドン ファンは答える前にくすくす笑った。「もし意識の終わりを死と呼ぶなら、たしかに彼らは死ぬ。彼らの意識は終わりになる。その死は人間の死ととてもよく似ている、がそうではない。人間の死には隠された選択 hidden option があるからな。そいつは法律の文章の中の文みたいなもんだ。ほとんど読めないほど小さい字で書いてある。虫メガネを使って読まにゃならない。それでも一番重要な文なんだがな。」
 「その隠された選択って何だい、ドン ファン?」
 「死の隠された選択はもっぱら呪術師向けのものだ。彼らは知る限りでは細かいプリント fine print を読んできた唯一の者だ。彼らにとっては選択は核心に触れるものだし、機能している。通常の人間にとっては死は彼らの意識の終わりだ。その有機体の終わりだ。 非有機的存在 にとっても死は同じ、意識の終わりということだ。どっちの場合も死の衝撃は 意識の暗い海 の中に吸い込まれることさ。彼らの個体の意識はその生命の体験を背負って、境界を突破する。そしてエネルギーとしての意識が 意識の暗い海 の中へあふれこぼれ出すということになる。」
 「でも呪術師だけが選ぶ死の隠された選択って何なんだい、ドン ファン?」私はたずねた。
 「呪術師にとって、死はまとめる要素 unifying factor だ。たいていの場合、死は有機体を解体するが、そうではなくてそれをまとめるんだ。」
 「どうやって死はまとめるの?」私は抗議するように言った。
 「呪術師にとって死はからだの中にある個人的な気分 moods の支配を終わりにするものだ。気分とか全体のからだの行動を支配しているのは体の様々な部分の支配だと古代の呪術師たちは考えていた。働かなくなった部分がからだの残りを混沌へ引きずっていく。たとえばゴミを食えば病気になるだろ。そのときにはおまえの胃の気分が何かを感じている affect。死はそういう個々の部分の支配を根絶させることだ。死はそういう意識をまとめてひとつのもの unit とするわけだ。」
 「ということは死んだ後、呪術師たちはまだ生きてるってわけ?」私はたずねた。
 「呪術師にとっては死は彼らのエネルギーのどの断片も使ってするまとめる働き act だ。おまえは目の前にある腐り始めた死体のことを死だと考えているんだろうが。いちどまとめる働きが起こると、死体はないんだ there is no corpse。腐るというのもない。彼らのからだはその全体がエネルギーに変わる。細かくならない意識を持ったエネルギーだ。有機体によって引かれた線は死によって壊されるが、それらは呪術師の場合にはまだ働いているんだ。もっともじかに目で見ることはできんが。」
 「死ぬほど質問したいことがあるのはわかっているんだがな。」彼はあけっぴろげに笑って言った。「わしの言ってるのが天国とか地獄に行く魂のようなものなんじゃないかって。それは魂じゃないぞ。死の隠された選択 option を呪術師が選ぶときに何が起こるか。彼らは 非有機的存在 になってゆく。とても特別で速い 非有機的存在 だ。そういう状態ではとてつもないものを見ること perception ができる。それから呪術師たちは古代メキシコのシャーマンたちが 決定的な旅 と呼んだものに入っていく。 無限 は彼らの行動領域 realm of action になる。」
 「それでドン ファンが言っているのは永遠になるっていうこと?」
 「呪術師としての冷静さをもって言えば、彼らの意識は終わりになる。非有機的存在の意識が終わりになるように。しかしわしはそれが起こるのを 見た ことがない。それについては直接の知識がない。このタイプの 非有機的存在 の意識は地球が生きている限り続く、と古代の呪術師たちは信じていた。地球は彼らの母胎 matrix だ。それが優勢である限り、意識は続く。わしにとってはこれはもっとも理にかなった説明だな。」
 ドン ファンの説明の一貫性とその秩序は私にとっては驚異的だった。どう言っていいのかわからなかった。彼の言葉が神秘の感覚、表現できないが成就されるべき期待というようなものを残した。
 ドン ファンのところに次に行ったとき、私は心にあった第一の疑問を熱っぽく語った。
 「ドン ファン、幽霊とか亡霊って本当に存在するのかい?」
 「幽霊とか亡霊とかという代物は、呪術師が詳しく調べるとこういうことになる。幽霊みたいなものは意識をもったエネルギーフィールドが集まったものだ。それをわしらは自分が知っているものにする。そういう場合、亡霊はエネルギーを持つ。呪術師はそれを エネルギーを産み出す形 energy-generating configuration と呼んでいる。でなけりゃなんのエネルギーも出していないということだが、その場合は幻想的な創造物だろう。たいていは意識が強い人間が持つものだが。」
 「ひとつとくに気を引いた話があったな」ドン ファンは続けた。おまえがしてくれた叔母さんについての話だ。覚えているか?」
 私はドン ファンにその話をしたことがあった。14歳のとき父の妹の家で暮らすことになった。彼女は三つのパティオを持つ巨大な家に住んでいた。それらのパティオは間に生活スペースがあって、寝室とか居間を持っていた。最初のパティオはとても質素で壁には丸石がはめこまれていた。それは植民地時代の家だったそうで、この最初のパティオは馬車が入っていたということである。二番目のパティオは美しい果樹園だった。ムーア風のデザインの煉瓦でできた小道がジグザグに走っていて、果物の木がたくさんあった。三番目のパティオは屋根の軒から花瓶とか鳥かごがつり下がっていた。真ん中には植民地スタイルの噴水があって水が流れていた。同じ大きさぐらいの鶏小屋がわきにあって金網で覆われていた。そこは叔母が賞をもらった闘鶏の鶏用のものだった。闘鶏は彼女の生涯の楽しみだったのだ。
 叔母は果樹園のすぐ前にあるアパートメント全部を私にあてがった。私はそこで一生暮らすのかなと思った。なんでも好きな果物を食べることができた。なぜかはわからなかったが、家の他の人たちはそれらの木になっている果物には手をつけなかった。その家には背が高く丸い顔の太った50代の叔母がいた。とても陽気で、話がうまく、形式ばった外面と献身的クリスチャンという様子の裏に、風変わりな面をいっぱい持っていた人だった。それからこれも背が高く堂々とした40代の執事がいた。彼は軍隊では曹長で、もっといい給料につられてこの家の執事になった。またボディガードでもあり、叔母の家ではなんでも屋といったところだった。彼の妻は美しく若い女性だった。叔母の付き添いであり、コックであり、また腹心の友という感じだった。このカップルには娘が一人いて、太って小さい少女だったが、叔母にそっくりだった。あまりに似ていたので叔母は彼女を法的に養子にしてしまった。
 かれら4人は私が会った内ではもっとも静かな人たちだった。平静な生活を送っていた。唯一それを中断するのは叔母の風変わりな面で、衝動的に旅行を決めたり、新しい有望な鶏を買ったり、調教したり、実際大金がかかったコンテストに出たりしていた。彼女は鶏に愛情を注いでいた。ときには日がな一日世話をしていた。鶏が襲ってくるのをふせぐために、厚手の皮でできた手袋をはめ、堅い皮のゲートルをはいていた。
 私は叔母の家でとんでもない2ヶ月を過ごした。彼女からは午後に音楽を教わり、家の祖先について、きりのない話を聞かされた。私の生活環境は理想的だった。友人たちと外出しても誰にも報告などしなくてよかったからだ。ときにはベッドの上で寝ずに何時間も過ごした。オレンジの花が部屋の中を香りで満たすように窓をよく窓を開け放しにしておいたものだ。横になって目を開けていると、誰かが北側を歩いている物音が聞こえた。その長い廊下は家のパティオ全部に面していて、天井は美しいアーチで、床はタイル貼りだった。4つ、申し訳程度の電球があり、かすかに廊下を照らしていた。それらは毎晩6時になると点灯し、朝の6時に消えた。
 私は叔母に聞いてみた。誰かが夜に歩いていて、私の部屋の窓のところで止まっているのではないか。というのはその歩いている人物はいつも決まって窓のところで止まり、くるりとまわり、また家の入り口の方にむかってひきかえして行ったからである。
 「くだらないことに関わってはいけませんよ、坊や」叔母は笑って言った。「執事よ、きっと。見回りをしているんだわ。大騒ぎなこと。怖かったの?」
 「怖くはなかったけど」私は言った。「ただ変なんだ。執事は毎晩ぼくの部屋に歩いてくるよ。ときどき足音で目がさめるんだけどね。」
 彼女は私の問いかけをぶっきらぼうに無視して、執事は軍人だったし、歩哨がするように見回りすることに慣れているからと言った。私は彼女の説明を受け入れた。
 ある日、執事にそのことを言ってみた。足音が大きすぎること、もし彼が私の部屋のところを見回っているなら少し気をつけてくれれば寝られるのだが、と。
 「何をおっしゃっているのかわかりません。!」 彼はぶっきらぼうな声で言った。
 「ぼくの叔母は夜になるとあんたが見回りすると教えてくれたんだ。」私は言った。
 「そんなことはしてませんよ。!」彼は不快感のこもった目つきで言った。
 「でも誰がぼくの部屋を歩いているんだい?」
 「だれも歩きやしませんよ。思い込みってやつじゃないですかい。さあ眠ることですよ。騒ぎを起こさないでください。これは貴方のためを思ってのことですよ。」
 その年頃の私にとっては、私のためになると誰かが言うことほどひどいことはなかった。その夜、足音を聞くやいなや、私はベッドから飛び出し、アパートメントの入り口につながる壁にかくれた。歩いている人物は2番目の電球のところにいると見当をつけた。そして廊下を見るために、いきなり頭をつきだした。足音は突然止まった。だがそこには誰もいなかった。ぼんやりと照らされた廊下には人影はなかった。もし誰かがそこを歩いていたとしたら、隠れる時間はなかっただろう。ただの壁があるだけで隠れるところなどなかったからである。
 私はとても恐ろしくなり、金切り声をあげて、家中の者をたたき起こしてしまった。叔母と執事がたんに思いこんでいるのだからと私を鎮めようとしたが、私の気があまりに動転していたので、とうとう彼らは気恥ずかしげに白状した。実は彼らも知らない者が毎晩家を歩いている、ということだった。
 ドン ファンが言うには、夜になると歩いていたのは十中八九わたしの叔母だということだ。つまり彼女の意識のある面 aspect が彼女の意志的なコントロールなしに歩いている、というのである。この現象は彼女が培った遊び心、神秘なところに従っていると彼は信じていた。ドン ファンによれば、叔母がある下意識的レベルでこれらの物音を立てているどころか、もっと複雑な意識の操作にも通じていると考えることはなんら無理ではない。公平を期して言うならば、足音は 非有機的存在 の産物であった可能性を認めなくてはならない、とドン ファンは言った。
 彼によれば、われわれの双子の世界に住み着いている 非有機的存在 は彼の系統の呪術師からすれば、わたしたちの親戚だということである。しかしわたしたちの家族のメンバーと親密になるということは無駄なことである。なぜならそういう親密さから課せられる要求はいつも法外なものだからだ。彼が言うにはこの種の 非有機的存在 はわたしたちの 最初のいとこ であり、たえずわたしたちとコミュニケートしているが、意識的な覚醒のレベルでではないということである。別の言い方をすれば、下意識的にはすべてわたしたちは知っているのだが、それに対して彼らはわたしたちについて慎重で意識的な方法ですべて知っているのである。
 「わしらの 最初のいとこ からのエネルギーはひっぱること drag だ。」ドン ファンは続けた。「彼らもわしらと同じように困っている fucked up のさ。こう言おうか。わしらの双子世界 twin worlds の 有機的 かつ、 非有機的な存在 は扉と扉をつきあわせて隣に住んでいる姉妹たちの子供なんだと。彼らは違っているように見えるがまったくよく似ている。彼らはわしらを助けることはできない。そしてわしらも彼らを助けることはできない。おそらく、一緒にやっていく join ことはできるだろうさ。信じがたい同族会社を作ることもできるだろう。だがだめだ。家族の両方の枝とも極度に扱いにくく、なんでもないことに腹を立てる。典型的な扱いにくい最初のいとこの間の関係なんだよ。事の核心は人間も、双子世界からの 非有機的存在 も深い自己中心主義に陥っていることだと古代メキシコのシャーマンたちは信じていた。」
 ドン ファンによれば、古代メキシコの呪術師たちが 非有機的存在 について作り上げた分類には別のものがあって、それは 偵察 scouts とか 開拓者 explorers というものである。宇宙の深みからやってきて、人間の意識よりももっと無限に鋭く速い意識を持っている 非有機的存在 をこう表現していたということである。古い呪術師たちは世代を通して彼らの分類図式を磨いてきた。そして彼らの得た結論は 偵察 とか 探求者 のカテゴリーが属す 非有機的存在 が、その活発さによって人間と似ている、ということだった。彼らは人間との間につながりを作り、共生的な関係を持つことができる。古い呪術師たちはこの種の 非有機的存在盟友 と呼んだ。
 ドン ファンの説明では、彼らシャーマンたちがこの種の 非有機的存在 について話すとき間違ってしまったことは、その非人格的なエネルギーに人間的な特性を与え、それを飼い慣らすことができると信じたことだった。彼らはそのエネルギーの塊をヘルパーと見なし、信頼した。そのとき純粋なエネルギーであるために彼らは努力を支えるいかなる力をも持っていない the power to sustain any effort、ということを理解しなかった。
 「これで 非有機的存在 について知るべきことはみんな話したぞ。」ドン ファンは突然そう言った。これを確かめる唯一の方法は直接経験することだ。」
 彼が私に何をさせようとしているのかたずねることはしなかった。深い恐れで私のからだが神経的に痙攣し、まるで火山の噴火のように、太陽神経叢の辺りからその痙攣が爆発し、胴体のてっぺんから足はつま先まで拡がっていった。
 「今日、わしらは 非有機的存在 を探しに行こう。」と彼は告げた。
 ドン ファンはベッドに座って、また 内的沈黙 を強いる体勢をとるように命じた。わたしはいつになく落ち着いて彼に従った。普通だったら私は抵抗しただろう。あからさまにではないだろうが、だがそれでも抵抗する痛みを感じただろう。座ったときに、私はすでに 内的沈黙 という状態にいたのではないかとぼんやり考えた。思考はもはや明晰ではなかった。あたりには侵入しがたい闇が取り囲んでいる、と感じた。まるで眠りに落ちるかのように、わたしのからだは完全に動きをやめた。それは動こうといういかなる命令も発動する set up 意図がなかったからか、あるいはまた、ただそういう命令を組み立てる formulate ことができなかったからだった。
 しばらくして、ドン ファンと一緒にソノラ砂漠を歩いていることに気づいた。あたりを見分けることができた。彼と一緒に何度もそこへ来ていたので、景色のすみずみまで覚えていた。一日も終わろうとしていた。夕日の光が絶望的な気分を作り出した。わたしは自動的に歩き出した。思考に伴われていないからだの感覚を感じている、ということがわかった。その状態をわたしは自分に説明することはしなかった。このことをドン ファンに言いたかったが、身体感覚を彼に伝えるという望みは一瞬にして消えた。
 ドン ファンはゆっくりと、低く、重々しい声で言った。わたしたちが歩いている河床は手につけた仕事にとっては最適なところで、わたしはひとつの大きな丸い石の上に座らなくてはならず、彼は15フィートほど離れた別の丸石の上に座る、ということだった。いつもしているようにドン ファンに何をしたらいいのかたずねるということはしなかった。わたしはしなければならないことを知っていた。それからまばらに散らばっている灌木の中でカサカサと人が歩いている音が聞こえた。その地域には水気が少なくどっしりした下ばえが生えていなかった。10フィートか15フィートくらいの間隔でたくましい灌木がいくつかあった。
 ふたりの男が近づいてくるのが見えた。彼らは土地の人間のようで、近隣のヤキの町の一つから来たヤキインディアンだっただろう。彼らは私の方へ来てそばに立った。一人がむとんちゃくに元気かいとたずねた。わたしは微笑もうとしたができなかった。顔が極度にこわばってしまった。それでもわたしはうきうきしていた。飛び跳ねたいほどだったが、できなかった。元気だよとわたしは彼らに言った。それからだれなのかと尋ねた。彼らを知らなかったが、異常なほど親近感を感じる、そんなことも言った。一人がそっけなく答えた。彼らはわたしの盟友だ、というのだ。
 わたしは姿かたちを記憶にとどめようと彼らを見つめた。しかし彼らの姿はくるくる変化した。私の状態の気分に合わせて彼らは自分たちをかたどっているように見えた。思考はまったく関知しなかった。すべてが内蔵感覚によって導かれたことだった。彼らの姿が消えてしまうまでわたしは見つめていた。そしてついに、振動する光の二つの輝く玉を目にした。光の玉は境界を持っていなかった。それらは内側から自分たちを一貫して支えているように見えた。ときには平たく拡がった。そしてまた垂直に戻り、人間の高さほどになった。
 突然、ドン ファンの腕がわたしの右腕を肩のところでつかんで引っ張っているのを感じた。もう行く時間だ、と彼は言った。つぎの瞬間、驚いたことにわたしはまた中央メキシコの家に戻った。
 「今日、おまえは 非有機的存在 を見つけた。それから現実にあるがままの彼らを もした。」彼は言った。「エネルギーはすべての中で何にも変わらない残りものだ irreducible residue。わしらに関する限り、直接エネルギーを見ることは人間にとってもっとも重要なこと bottom line だ。たぶんそれ以上のものがあるんだろう。だがそいつはわしらには手に入らない。」
 ドン ファンはこのことを何度も繰り返した。そして彼がそのことを言うたびに、まるで日常の状態に戻るのを助けるように、彼の言葉は私をいっそう固めていった。
 自分が目撃したこと、聞いたことを全部わたしはドン ファンに語った。その日、 非有機的存在 の人間様の形を彼らの本質に変換するのにわたしは成功したのだ、と彼は説明した。その本質とはそれ自身に気づいている非人称的なエネルギーである impersonal energy aware of itself。
 「理解するべきだ。」「わしらの資質 resources を切りつめるのは本当は解釈のシステムだ。わしらの解釈のシステムは自分たちの可能性の要素が何であるかをわしらに語るものだ。そいつを生涯かけて使うものだから、わしらはその命令 dictums に反することをあえてやることはできないわけだ。」
 「そういう 非有機的存在 のエネルギーはわしらを押す。」ドン ファンは続けた。「そしてわしらは自分たちの気分によってするようにその押しを解釈する。呪術師にとって、もっともまじめなことは、そういう実体を抽象のレベルにゆだねることだ。呪術師がほとんど解釈しなければ、いっそう良いことだ。」
 「これからはだな、」と彼は話を続けた。「奇妙な亡霊に出くわしたら、地面にしがみついて毅然として見つめることだ。もしそれが 非有機的存在 であるならば、おまえの解釈は落ちた葉のように崩れ去るだろう。もし何も起こらなかったら、それはただおまえの心が臆病にさまよっているにすぎない。もっともおまえの心ではないんだが。」