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 SUBJECT   [ 2024 ] [ new post ]   共感覚者
 AUTHOR   Mr.0  8/19/Sun/2002      

共感覚

通様相知覚と共感覚
人間には臭覚、味覚、触覚、聴覚、視覚の、いわゆる五感に加えて、動覚を合わせた六つの知覚がある。これら知覚の対象の中に は、たとえば味や色などのように、ふつうにはただ一つの感覚系によってしか知覚できないものと、たとえば形や運動にように、視覚と触 覚との両者によって独立に知覚できる、アリストテレスの言う共有感覚対象(common sensible)とがある。
ここで動覚というのは主として耳の三半規管で感じる、体の動きの加速度の感覚であるが、このほかにも、動覚には体の筋肉による感 覚や、触覚の一種である圧覚なども加わって、複雑である。
ちなみに、健常人と異なる、生まれつきの盲人の場合いには、やや例外的ではあるが、環境音の微妙な反射などによって、前方にある 障害物の形や距離を、おぼろげながらある程度知覚できるというから、健常人といえども、潜在的には視覚と聴覚とが共有感覚対象を 持っていると言ってもよいのかもしれない。
ところで健常人でも、独立した異なる感覚系にまたがって感覚の影響がある程度相互に表われることがある。すなわち、「黄色い 声」、「渋い色」といった表現が示すように、前者では視覚と聴覚、後者では味覚と視覚といった異なる感覚系のあいだで、何となく共通し た性質が認められると感じられることがあるのを示唆している。「甘い香り」という表現も味覚と嗅覚とが一緒になった表現である。もっと 広くには、茶道、華道と並び、室町時代中期(15世紀半ば)に完成された日本における三大芸道の一つである香道においては、香の薫り を「聞く」と言うのもその例である。
また環境の照明の色、すなわち視覚的刺激の種類を変えると、聴覚の鋭敏さが変わることも知られているし、さらに重さと大きさとがあ る適当な範囲にある、同じ大きさで同じ重さの立方体を一度に一つずつ同じ手に持って重さを推定させると、それらが白色と黒色と別々 の色で塗られているというだけで、ある重さの範囲では黒いほうが1.8倍も重く感じられることさえあり、視覚と(筋肉による力覚を含めた) 触覚のあいだの相互干渉といったように、一つの感覚系への刺激が他の感覚系の感度に影響することが知られている。これらのように、 異なる感覚系間に相互影響がある現象を、一般に通様相(crossmodal)知覚と言う。
さらに、生起頻度は10万人に1人と言われているほどにまれな現象であるが、たとえば味覚刺激によって味を感じるのと同時に、体 じゅう、特に腕や手の内に固体による触覚を明瞭に覚えるといった、共感覚知覚(synesthetic perception)を示す者がある。この共感覚 (または共伴感覚, synesthesia)は、約200年まえに初めて医学的に記述され、今世紀の初めに、それが想像の産物ではなく、実在の現 象であることが医学的に認められ、1980年初頭になって実験的に検証された、珍しくかつ極端な通様相知覚の一種である。
しかしながらこの共感覚は、発現こそ10万人に1人といわれるぐらいまれなものではあるが、これからだんだんと見ていくように、その 裏に隠されている機序そのものは、実は万人に共通したものであることが分かってきつつある。したがって、われわれはここで共感覚を ただ珍しい現象として取り上げているのではなく、その発現が万人の脳の構造や機能を解明するための有力な手がかりの一つとして検 討しているのだということに留意すべきである。
この共感覚というものは偶発的に発現するというよりも、むしろ遺伝的要素によって発現するものらしい。サイトヴィックによれば、かれ が直接観察した共感覚者42名のうちの7名、つまり6分の1が近親者に共感覚者があったという。いまこの近親者の範囲を20人と任意 にとってみれば、平均が10万人に1人という共感覚者の20人の近親者の中に別の共感覚者がみつかる確率は数千分の1にしかならな い。したがってこの6分の1という数字は、共感覚者の発現ということと近親者であるということがかなり高い相関を示していることがわか る。

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